ネット上で激化するバッシング(1)
☆はじめに~年々激しさを増すネット上での誹謗中傷のバッシング~
先日、シリアの武力勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんが無事解放されるという出来事がありました。実に3年4か月もの間、人質として拘束されていた安田さん。拘束中には、兵士に銃を突きつけられている姿などがインターネット上に映像として流れたこともあり、多くの人がその身を案じていましたが、無事日本に戻ってきてくれてとても嬉しく思います。
しかし日本国内での、安田さんが解放され帰国したことに対する反応は、決して歓迎の声だけではありませんでした。
「身代金は働いて返せよクソ野郎」「シリアに帰れ」など、帰国後の安田さんに待ち受けていたのは、思わず目を覆いたくなるような過激なバッシングの嵐でした。数多くの著名人や知識人が報道番組などで安田さんを非難する発言を繰り返し、そして何よりネット上では安田さんへの心ない誹謗中傷のバッシングの書き込み数多くがされ、連日炎上するような状態となりました。
思えば、こうしたなネット上での過激なバッシングの書き込みというものは年々激しさを増しているような印象を受けます。一体今回の安田さんの件に見られるような過激な書き込みというものはなぜ起きてしまうのか、今回はその一端について触れていきたいと思います。
☆ネット上での“炎上”件数の急増
それにしても、こうしたネット上でのバッシングといったものは一体いつぐらいからはじまり、どのくらいの規模で増えているのでしょうか。今回私はそのことを知るために“炎上”というワードを指標にして検討していきたいと思います。
[炎上]・・・(比喩的に)インターネット上のブログなどでの失言に対し、非難や中傷の投稿が多数届くこと。また、非難が集中してそのサイトが閉鎖に追い込まれること。(デジタル大辞典・小学館)
“炎上”とは上記の通り、ネット上で、特定の対象に対して非難や中傷が集中することを意味します。したがって、この“炎上”というワードがいつ生まれ、近年どれくらいの頻度で発生しているかがわかれば、ネット上でのバッシングの傾向について知ることができるからです。
まず、最初に見て頂きたいのが、下記の統計資料です。
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242210.html
これは、総務省が発表した『情報通信白書』(平成27年度版)ですが、図表4-2-2-1『新聞記事データベースにおけるSNS炎上関連記事件数の推移』を見ていただくと、2004年に初めて新聞記事として“炎上”という用語が登場し、以後、変動はありますが経年的に増加していることは明らかです。
また、『レピュ研』(ネット上の評判・風評などのリスクに対して研究する機関)の発表による2017年の炎上件数は1086件とされ、毎日なにかしらの炎上事例が発生するまでになっていることがわかります。
(『年間炎上件数の推移』レピュ研/https://repyuken.com/news/2018-4-5-enjo_report2017)
ところで、“炎上”というワードが世に出始めたとされる2004年と言えば、Facebook、ameba、Gree、mixiなどの今も代表的なSNSのサービスが開始された年でもあります。こうしたツールとその利用者の急激な増加が、“炎上”が急激に増加することになった一つの要因として考えて間違いはないでしょう。
いずれにせよ、ここ数年で、“炎上”件数は急激に増大してきているのは明らかです。
☆安田さんの事例からみる、バッシングの書き込みの特徴
こうした“炎上”件数の増加に見られるように、ネット上での誹謗中傷のバッシングが過熱化していることは明らかですが、具体的にはどのような書き込みがされているのでしょうか。冒頭で紹介した安田純平さんのケースで見ていきたいと思います。
差し当って、Twitterで、11/12時点で書き込みがされていた安田純平さんについてのバッシングについて書き込みを拾ってみました。
・『政府が行ってはいけないと 止めるのも聞かず、 勝手に行き、拉致されたから 助けて下さいなんて ようも言えたもんだ!』
・『おいおい安田純平はまだシリア行かねぇのかよ 早く行ってこいよ』
・『安田純平さんがテロリストにされていた嫌がらせ、ショボすぎるwwww』
・『安田純平さん、はやく身代金返してください』
・『安田純平氏の目的は、自らが人質になることによって、 日本国政府の活動を妨害する反日活動にあるんじゃないか? 彼の出自からすれば、納得できる目的だ。』
・『現実に彼がやったことは、イラクでは日本国政府の行動を妨害するために、イラク軍に志願して協力して人質になった。 シリアでは入国直後に人質に』
というように、解放から10日程経過した今でも、わずか1時間程度の間にこのような辛辣な書き込みが何件もUPされています。
私がこうしたバッシングの書き込みから受ける印象は、『感情的で短絡的』『根拠が乏しい』『バッシング自体が目的化している』などという特徴です。
この世の中には人それぞれ様々な考え方がありますが、こうしたバッシングとして書き込みがされている書き込みのほとんどが、少し考えれば容易におかしいと思う程度の内容ですし、そもそも何を訴えたいのかが不明瞭であることからも、“バッシングすること自体が目的化している”という私の考えは、近からずとしてもそう遠くないのではと思います。
☆ネット上でのバッシングの先駆けとしての“ネトウヨ”
そして、こうしたネット上でのバッシングの書き込みをする人自体の特徴を検討するために、また一つ“ネトウヨ”というワードを指標にして考えて行きたいと思います。
そもそもネット上でのこうしたバッシングが問題として出始めた際、その仕掛け人として一番最初に、世間に広く認知されたのがいわゆる“ネトウヨ”(ネット右翼)”と呼ばれる人たちでした。
デジタル大辞泉では、ネトウヨ(ネット右翼)=「インターネットの掲示板2chやブログ上で、保守的、国粋主義的な意見を発表する人たち。」と紹介がされていますが、実際のところ、保守本流や右翼団体の当事者の認識としては、
「彼らは保守思想にすらコミットしていないと思います。左翼が言っていることが気に入らないという「反左翼」という意識だけではないか」(中島岳志)
「ネトウヨにはある種の反知性主義としか言いようのない、下品な言葉遣い、他人に対する誹謗中傷、罵詈雑言(ばりぞうごん)がある」(西部邁)
(『AERA.dot/ネトウヨと保守、右翼は何がどう違うのか』より)
というように、ネトウヨの人たちは、保守や右翼の当事者から距離を置かれているというのが現状です。
加えて、ネトウヨに対する評価としては、
『ネット右翼とは、「感情論」としての嫌韓(嫌在日コリアン)・反中、及び既存のマスコミへの呪詛が辛うじて一本の支柱として存在するものの、それ以外——いやむしろ、それを含めて——自前の理論や理屈、言葉を持たぬ人々のことを指すのである。彼らは自前の理論や理屈を持たないからこそ、保守系言論人や文化人に「寄生」するしかないのだ。』
(『現代ビジネス2017.8.18<ネット右翼十五年史>なぜ、彼らは差別的言説を垂れ流すのか』古谷経衝より)
というように、“ネトウヨ”と呼ばれる人たちは、実際に「保守などの思想体系があるわけではなく、感情的に誹謗中傷・罵詈雑言を繰り返す自前の理論や理屈、言葉を持たない存在」として知識人・保守・右翼団体から認識されているわけです。
このように、ネトウヨの、思想体系を持たず、感情的にバッシング行為を繰り返すといった特徴は、安田純平さんにバッシングの書き込みをする人たちにも共通してみることができます。
もし、安田純平さんの件をはじめ、昨今ネット上でバッシングを人たちが、こうした思想体系を持たず、感情的に誹謗中傷・罵詈雑言を繰り返しているのだとすれば、思想体系を持たないだけに、そのバッシングは必然的にバッシング自体を目的としていることになりますし、誰でも攻撃対象になり得るということです。
つまり、今ネット上でバッシングを繰り返している人たちは、バッシング自体を目的とし、日々攻撃対象を求めてネット上を彷徨っているということになります。それはまるで、一般のネットユーザーにとってはゲリラの巣くうジャングルの中に取り残されたようなもの、と言えるのかもしれません。
先日、シリアの武力勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんが無事解放されるという出来事がありました。実に3年4か月もの間、人質として拘束されていた安田さん。拘束中には、兵士に銃を突きつけられている姿などがインターネット上に映像として流れたこともあり、多くの人がその身を案じていましたが、無事日本に戻ってきてくれてとても嬉しく思います。
しかし日本国内での、安田さんが解放され帰国したことに対する反応は、決して歓迎の声だけではありませんでした。
「身代金は働いて返せよクソ野郎」「シリアに帰れ」など、帰国後の安田さんに待ち受けていたのは、思わず目を覆いたくなるような過激なバッシングの嵐でした。数多くの著名人や知識人が報道番組などで安田さんを非難する発言を繰り返し、そして何よりネット上では安田さんへの心ない誹謗中傷のバッシングの書き込み数多くがされ、連日炎上するような状態となりました。
思えば、こうしたなネット上での過激なバッシングの書き込みというものは年々激しさを増しているような印象を受けます。一体今回の安田さんの件に見られるような過激な書き込みというものはなぜ起きてしまうのか、今回はその一端について触れていきたいと思います。
☆ネット上での“炎上”件数の急増
それにしても、こうしたネット上でのバッシングといったものは一体いつぐらいからはじまり、どのくらいの規模で増えているのでしょうか。今回私はそのことを知るために“炎上”というワードを指標にして検討していきたいと思います。
[炎上]・・・(比喩的に)インターネット上のブログなどでの失言に対し、非難や中傷の投稿が多数届くこと。また、非難が集中してそのサイトが閉鎖に追い込まれること。(デジタル大辞典・小学館)
“炎上”とは上記の通り、ネット上で、特定の対象に対して非難や中傷が集中することを意味します。したがって、この“炎上”というワードがいつ生まれ、近年どれくらいの頻度で発生しているかがわかれば、ネット上でのバッシングの傾向について知ることができるからです。
まず、最初に見て頂きたいのが、下記の統計資料です。
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242210.html
これは、総務省が発表した『情報通信白書』(平成27年度版)ですが、図表4-2-2-1『新聞記事データベースにおけるSNS炎上関連記事件数の推移』を見ていただくと、2004年に初めて新聞記事として“炎上”という用語が登場し、以後、変動はありますが経年的に増加していることは明らかです。
また、『レピュ研』(ネット上の評判・風評などのリスクに対して研究する機関)の発表による2017年の炎上件数は1086件とされ、毎日なにかしらの炎上事例が発生するまでになっていることがわかります。
(『年間炎上件数の推移』レピュ研/https://repyuken.com/news/2018-4-5-enjo_report2017)
ところで、“炎上”というワードが世に出始めたとされる2004年と言えば、Facebook、ameba、Gree、mixiなどの今も代表的なSNSのサービスが開始された年でもあります。こうしたツールとその利用者の急激な増加が、“炎上”が急激に増加することになった一つの要因として考えて間違いはないでしょう。
いずれにせよ、ここ数年で、“炎上”件数は急激に増大してきているのは明らかです。
☆安田さんの事例からみる、バッシングの書き込みの特徴
こうした“炎上”件数の増加に見られるように、ネット上での誹謗中傷のバッシングが過熱化していることは明らかですが、具体的にはどのような書き込みがされているのでしょうか。冒頭で紹介した安田純平さんのケースで見ていきたいと思います。
差し当って、Twitterで、11/12時点で書き込みがされていた安田純平さんについてのバッシングについて書き込みを拾ってみました。
・『政府が行ってはいけないと 止めるのも聞かず、 勝手に行き、拉致されたから 助けて下さいなんて ようも言えたもんだ!』
・『おいおい安田純平はまだシリア行かねぇのかよ 早く行ってこいよ』
・『安田純平さんがテロリストにされていた嫌がらせ、ショボすぎるwwww』
・『安田純平さん、はやく身代金返してください』
・『安田純平氏の目的は、自らが人質になることによって、 日本国政府の活動を妨害する反日活動にあるんじゃないか? 彼の出自からすれば、納得できる目的だ。』
・『現実に彼がやったことは、イラクでは日本国政府の行動を妨害するために、イラク軍に志願して協力して人質になった。 シリアでは入国直後に人質に』
というように、解放から10日程経過した今でも、わずか1時間程度の間にこのような辛辣な書き込みが何件もUPされています。
私がこうしたバッシングの書き込みから受ける印象は、『感情的で短絡的』『根拠が乏しい』『バッシング自体が目的化している』などという特徴です。
この世の中には人それぞれ様々な考え方がありますが、こうしたバッシングとして書き込みがされている書き込みのほとんどが、少し考えれば容易におかしいと思う程度の内容ですし、そもそも何を訴えたいのかが不明瞭であることからも、“バッシングすること自体が目的化している”という私の考えは、近からずとしてもそう遠くないのではと思います。
☆ネット上でのバッシングの先駆けとしての“ネトウヨ”
そして、こうしたネット上でのバッシングの書き込みをする人自体の特徴を検討するために、また一つ“ネトウヨ”というワードを指標にして考えて行きたいと思います。
そもそもネット上でのこうしたバッシングが問題として出始めた際、その仕掛け人として一番最初に、世間に広く認知されたのがいわゆる“ネトウヨ”(ネット右翼)”と呼ばれる人たちでした。
デジタル大辞泉では、ネトウヨ(ネット右翼)=「インターネットの掲示板2chやブログ上で、保守的、国粋主義的な意見を発表する人たち。」と紹介がされていますが、実際のところ、保守本流や右翼団体の当事者の認識としては、
「彼らは保守思想にすらコミットしていないと思います。左翼が言っていることが気に入らないという「反左翼」という意識だけではないか」(中島岳志)
「ネトウヨにはある種の反知性主義としか言いようのない、下品な言葉遣い、他人に対する誹謗中傷、罵詈雑言(ばりぞうごん)がある」(西部邁)
(『AERA.dot/ネトウヨと保守、右翼は何がどう違うのか』より)
というように、ネトウヨの人たちは、保守や右翼の当事者から距離を置かれているというのが現状です。
加えて、ネトウヨに対する評価としては、
『ネット右翼とは、「感情論」としての嫌韓(嫌在日コリアン)・反中、及び既存のマスコミへの呪詛が辛うじて一本の支柱として存在するものの、それ以外——いやむしろ、それを含めて——自前の理論や理屈、言葉を持たぬ人々のことを指すのである。彼らは自前の理論や理屈を持たないからこそ、保守系言論人や文化人に「寄生」するしかないのだ。』
(『現代ビジネス2017.8.18<ネット右翼十五年史>なぜ、彼らは差別的言説を垂れ流すのか』古谷経衝より)
というように、“ネトウヨ”と呼ばれる人たちは、実際に「保守などの思想体系があるわけではなく、感情的に誹謗中傷・罵詈雑言を繰り返す自前の理論や理屈、言葉を持たない存在」として知識人・保守・右翼団体から認識されているわけです。
このように、ネトウヨの、思想体系を持たず、感情的にバッシング行為を繰り返すといった特徴は、安田純平さんにバッシングの書き込みをする人たちにも共通してみることができます。
もし、安田純平さんの件をはじめ、昨今ネット上でバッシングを人たちが、こうした思想体系を持たず、感情的に誹謗中傷・罵詈雑言を繰り返しているのだとすれば、思想体系を持たないだけに、そのバッシングは必然的にバッシング自体を目的としていることになりますし、誰でも攻撃対象になり得るということです。
つまり、今ネット上でバッシングを繰り返している人たちは、バッシング自体を目的とし、日々攻撃対象を求めてネット上を彷徨っているということになります。それはまるで、一般のネットユーザーにとってはゲリラの巣くうジャングルの中に取り残されたようなもの、と言えるのかもしれません。