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ネット上で激化するバッシング(2)

☆“マイノリティ”がネットでの炎上を引き起こしている

 そして、このようにネット上でバッシングを繰り返す、いわゆる“炎上”を引き起こすきっかけを作る書き込みをしている人たち、いわゆる“仕掛け人”ともいえる存在は、どの程度の規模で存在しているのでしょうか。

 日経ビジネスオンライン2016年12月13日付の「ネット炎上、仕掛け人『0.5%』の正体-」(国際大学・山口真一氏へのインタビュー)というタイトルの記事の中で、山口氏は「炎上に絡んで書き込みをした人の数は、ネットユーザー全体の約0.5%、200人に一人しかいない。」ということを指摘しています。

 これはとても興味深い指摘で、もし山口氏の調査の結果を信用するならば、2018年現在、ネットユーザーはおよそ1億人、SNSの利用者数はその約7割と言われ、7000万人程度存在すると言われているので、その0.5%が仕掛け人とすると、約35万人程度の仕掛け人がいると推測されることになります。
 35万人というと、かなり多いような気がしますが、日本の総人口比でいうと、約0.3%でしかありません。たった0.3%しか存在しないマイノリティが連日、ネット上、ひいては大手マスコミも取り上げるまでに世間を騒がしているという奇妙な出来事が今現実として日本社会において起こってしまっているわけです。


☆マイノリティの主張が幅を利かせてしまっている構造

 それでは、いったいなぜ、こうしたマイノリティの主張が日本社会を騒がすまでの影響力を発揮してしまっているのでしょうか。
先に紹介した山口真一氏は同記事で下記のように述べています。

『よくあるのが、まずツイッターで投稿された炎上の種を見つけた人が、それを否定的に拡散するケースです。拡散されていくうちに、それに対する書き込みを10回も20回も繰り返す「ヘビーユーザー」が現れて、一気にその炎上が大きく見えてくる。・・・今度はそれをPV(ページビュー)数を稼ぐためにまとめる「まとめサイト」が出てきたり、ネットメディアが取り上げたりする。まとめサイトが取り上げる段階で拡散の威力は相当に高くなるのですが、最後にとどめとしてマスメディアが報道します。そうすると、ネットにそこまで精通していない人々や高齢者までがその事件や問題を知ることになるという流れです。』

 このように、ネット上のマイノリティが炎上の種を何度も書きこむ事に端を発し、→ネットメディア→マスメディアといった流れで、最初は小さな炎上だったものが、実態以上に大きくなってしまう構造が出来てしまっているという背景があるのです。
 そういう意味では、「ネット上の炎上問題を必要以上に取り上げている、そしてそれを大げさに報道することに加担していしまっている」マスメディアの姿勢にも大きな要因があるように思われます。


☆バッシング自体を目的化するマイノリティの本質

 また、山口真一氏は現代ビジネス・2018年11月12日『大規模調査でわかった、ネットに「極論」ばかり出回る本当の理由』において、2018年4月に実施したオンライン調査において、憲法改正において、少数派である両極端な意見の持ち主が、中庸の意見を持つ人たちの数倍もSNSへの書き込みを行っているという調査結果を明らかにしています。
 
 この調査結果をふまえると、炎上の種を何度も書き込むネット上のマイノリティは、極端な主張を持っており、その極端な主張がめくりめくってマスメディアで取り上げられることで、あたかもその主張自体が日本社会の世論の一角を占めている風に見えてしまっているという状況があるのかもしれません。

 そしてここからは私の推論となりますが、こうした極端な主張を持つマイノリティは、ネトウヨのように、自らの系統だった思想体系を持っているわけではないと思います。系統だった思想体系をもっていないからこそ、書き込みは結果的に感情的であったり、誹謗中傷・罵詈雑言といった形で現れるのではないでしょうか。

 そうつまり、今もなお安田純平さんらに対して行われている過激なバッシングの仕掛け人ともいえるのはまさに、この自らの系統だった思想体系を持たず、かつ極端な主張を持ち、さらにバッシングすることを目的とするマイノリティの人たちそのものなのだと思います。


☆終わりに-不毛な炎上をなくしていくために・・・-

 最後に、ここまでの私の検討についてまとめると、現在安田純平さんなどの例にみられるネット上のバッシング・炎上は年々激しさを増しており、その主要な要因は、自らの思想体系を持たない極端な主張を持つマイノリティが、バッシング自体を目的として日々書き込みを繰り返していることに端を発しており、マスメディアが結果的にそれを後押しするような形で問題を大きくしてしまっている、ということでした。
 こうした背景をもとに、私としては3つのことを最後に指摘したいと思います。

まず一つ目に、マスメディアの在り方についてです。先にも述べたように、今のマスメディア、特にテレビ報道についてですが、ネット上での炎上そのままに取り上げ報道することが多すぎます。時にはSNS上でもコメントをそのまま紹介することもあり、ネット上での書き込みが実社会の世論と大きく乖離している危険性にもう少し注意を払ってほしいと思います。

 二つ目に、ネット上でのバッシングの書き込みについての対応です。系統立たない極端な主張を持ったマイノリティが、誹謗中傷などのバッシング自体を目的とし書き込みをしていると考えると、バッシングされている対象を擁護する人たちは、良心的に反論されていると思うのですが、中にはバッシングする側と同じように感情的になって、過激な言葉で罵詈雑言ともいえる書き込みをされている方が散見されます。
 安田純平さんに対するバッシングに対して擁護したダルビッシュ有さんの理路整然とした落ち着いた書き込みについて多くの人の称賛が寄せられましたが、擁護する側としても誹謗中傷が目的にならないような書き込みをしてほしいと思います。

 最後三つ目に、これは私自身に対して課す課題でもあるのですが、バッシングを繰り返すマイノリティがなぜそのようなことを繰り返すのかということへの検討です。
私の中でもまだこの理由についてははっきりとして考えが持てていないので、この場での検討は避けますが、非常に重要な問題だと思います。

 今回の記事の内容と矛盾するようですが、バッシングを繰り返すマイノリティの心性には、少なからず私を含む日本の幅広い人たちの間にも共通して存在するものがあるのではないかということです。
 私自身、ネット上での過激なバッシングの書き込みを見ると時々、反射的に同じく過激な言葉でその書き込みについて非難したくなったりすることがあります。いったいこの心性は何に由来するのでしょう。

 ネット上ではいまもなお日々、炎上事例が相次いでいるわけですが、その火種は一部のマイノリティに起因するものだとしても、それが増幅しているのはマスメディアのせいだけではないのかもしれません。
 私たち一人ひとりがマイノリティに無意識的に事を大きくする誘導されて、事を大きくする手助けをしているのかもしれませんし、もしかしたら、私たち自身がマイノリティに依存して、自ら望んで過激なコメントをし返しているのかもしれません。

 いずれにせよ、ネット上でバッシングを繰り返すその心性を理解することは、日々起こっている無用な炎上を鎮静化し、傷つく必要のない人たちを傷つけている現状を変革していることにつながるはずです。
 
 ことは一部のマイノリティに対してどう対応していくかという問題ではありません。私たちみんなが理不尽で不毛な現状から解放されるためにも、今後も検討を続けていきたいと思います。

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ネット上で激化するバッシング(1)

☆はじめに~年々激しさを増すネット上での誹謗中傷のバッシング~

 先日、シリアの武力勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんが無事解放されるという出来事がありました。実に3年4か月もの間、人質として拘束されていた安田さん。拘束中には、兵士に銃を突きつけられている姿などがインターネット上に映像として流れたこともあり、多くの人がその身を案じていましたが、無事日本に戻ってきてくれてとても嬉しく思います。

 しかし日本国内での、安田さんが解放され帰国したことに対する反応は、決して歓迎の声だけではありませんでした。

「身代金は働いて返せよクソ野郎」「シリアに帰れ」など、帰国後の安田さんに待ち受けていたのは、思わず目を覆いたくなるような過激なバッシングの嵐でした。数多くの著名人や知識人が報道番組などで安田さんを非難する発言を繰り返し、そして何よりネット上では安田さんへの心ない誹謗中傷のバッシングの書き込み数多くがされ、連日炎上するような状態となりました。

 思えば、こうしたなネット上での過激なバッシングの書き込みというものは年々激しさを増しているような印象を受けます。一体今回の安田さんの件に見られるような過激な書き込みというものはなぜ起きてしまうのか、今回はその一端について触れていきたいと思います。


☆ネット上での“炎上”件数の急増

 それにしても、こうしたネット上でのバッシングといったものは一体いつぐらいからはじまり、どのくらいの規模で増えているのでしょうか。今回私はそのことを知るために“炎上”というワードを指標にして検討していきたいと思います。


[炎上]・・・(比喩的に)インターネット上のブログなどでの失言に対し、非難や中傷の投稿が多数届くこと。また、非難が集中してそのサイトが閉鎖に追い込まれること。(デジタル大辞典・小学館)


“炎上”とは上記の通り、ネット上で、特定の対象に対して非難や中傷が集中することを意味します。したがって、この“炎上”というワードがいつ生まれ、近年どれくらいの頻度で発生しているかがわかれば、ネット上でのバッシングの傾向について知ることができるからです。

 まず、最初に見て頂きたいのが、下記の統計資料です。
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242210.html
 これは、総務省が発表した『情報通信白書』(平成27年度版)ですが、図表4-2-2-1『新聞記事データベースにおけるSNS炎上関連記事件数の推移』を見ていただくと、2004年に初めて新聞記事として“炎上”という用語が登場し、以後、変動はありますが経年的に増加していることは明らかです。

 また、『レピュ研』(ネット上の評判・風評などのリスクに対して研究する機関)の発表による2017年の炎上件数は1086件とされ、毎日なにかしらの炎上事例が発生するまでになっていることがわかります。
(『年間炎上件数の推移』レピュ研/https://repyuken.com/news/2018-4-5-enjo_report2017

 ところで、“炎上”というワードが世に出始めたとされる2004年と言えば、Facebook、ameba、Gree、mixiなどの今も代表的なSNSのサービスが開始された年でもあります。こうしたツールとその利用者の急激な増加が、“炎上”が急激に増加することになった一つの要因として考えて間違いはないでしょう。

 いずれにせよ、ここ数年で、“炎上”件数は急激に増大してきているのは明らかです。


☆安田さんの事例からみる、バッシングの書き込みの特徴

 こうした“炎上”件数の増加に見られるように、ネット上での誹謗中傷のバッシングが過熱化していることは明らかですが、具体的にはどのような書き込みがされているのでしょうか。冒頭で紹介した安田純平さんのケースで見ていきたいと思います。

 差し当って、Twitterで、11/12時点で書き込みがされていた安田純平さんについてのバッシングについて書き込みを拾ってみました。

・『政府が行ってはいけないと 止めるのも聞かず、 勝手に行き、拉致されたから 助けて下さいなんて ようも言えたもんだ!』

・『おいおい安田純平はまだシリア行かねぇのかよ 早く行ってこいよ』

・『安田純平さんがテロリストにされていた嫌がらせ、ショボすぎるwwww』

・『安田純平さん、はやく身代金返してください』

・『安田純平氏の目的は、自らが人質になることによって、 日本国政府の活動を妨害する反日活動にあるんじゃないか? 彼の出自からすれば、納得できる目的だ。』

・『現実に彼がやったことは、イラクでは日本国政府の行動を妨害するために、イラク軍に志願して協力して人質になった。 シリアでは入国直後に人質に』

というように、解放から10日程経過した今でも、わずか1時間程度の間にこのような辛辣な書き込みが何件もUPされています。

 私がこうしたバッシングの書き込みから受ける印象は、『感情的で短絡的』『根拠が乏しい』『バッシング自体が目的化している』などという特徴です。
 
 この世の中には人それぞれ様々な考え方がありますが、こうしたバッシングとして書き込みがされている書き込みのほとんどが、少し考えれば容易におかしいと思う程度の内容ですし、そもそも何を訴えたいのかが不明瞭であることからも、“バッシングすること自体が目的化している”という私の考えは、近からずとしてもそう遠くないのではと思います。


☆ネット上でのバッシングの先駆けとしての“ネトウヨ”

 そして、こうしたネット上でのバッシングの書き込みをする人自体の特徴を検討するために、また一つ“ネトウヨ”というワードを指標にして考えて行きたいと思います。

 そもそもネット上でのこうしたバッシングが問題として出始めた際、その仕掛け人として一番最初に、世間に広く認知されたのがいわゆる“ネトウヨ”(ネット右翼)”と呼ばれる人たちでした。

 デジタル大辞泉では、ネトウヨ(ネット右翼)=「インターネットの掲示板2chやブログ上で、保守的、国粋主義的な意見を発表する人たち。」と紹介がされていますが、実際のところ、保守本流や右翼団体の当事者の認識としては、

「彼らは保守思想にすらコミットしていないと思います。左翼が言っていることが気に入らないという「反左翼」という意識だけではないか」(中島岳志)

「ネトウヨにはある種の反知性主義としか言いようのない、下品な言葉遣い、他人に対する誹謗中傷、罵詈雑言(ばりぞうごん)がある」(西部邁)
(『AERA.dot/ネトウヨと保守、右翼は何がどう違うのか』より)

というように、ネトウヨの人たちは、保守や右翼の当事者から距離を置かれているというのが現状です。

 加えて、ネトウヨに対する評価としては、
『ネット右翼とは、「感情論」としての嫌韓(嫌在日コリアン)・反中、及び既存のマスコミへの呪詛が辛うじて一本の支柱として存在するものの、それ以外——いやむしろ、それを含めて——自前の理論や理屈、言葉を持たぬ人々のことを指すのである。彼らは自前の理論や理屈を持たないからこそ、保守系言論人や文化人に「寄生」するしかないのだ。』
(『現代ビジネス2017.8.18<ネット右翼十五年史>なぜ、彼らは差別的言説を垂れ流すのか』古谷経衝より)

というように、“ネトウヨ”と呼ばれる人たちは、実際に「保守などの思想体系があるわけではなく、感情的に誹謗中傷・罵詈雑言を繰り返す自前の理論や理屈、言葉を持たない存在」として知識人・保守・右翼団体から認識されているわけです。

 このように、ネトウヨの、思想体系を持たず、感情的にバッシング行為を繰り返すといった特徴は、安田純平さんにバッシングの書き込みをする人たちにも共通してみることができます。
 
 もし、安田純平さんの件をはじめ、昨今ネット上でバッシングを人たちが、こうした思想体系を持たず、感情的に誹謗中傷・罵詈雑言を繰り返しているのだとすれば、思想体系を持たないだけに、そのバッシングは必然的にバッシング自体を目的としていることになりますし、誰でも攻撃対象になり得るということです。

 つまり、今ネット上でバッシングを繰り返している人たちは、バッシング自体を目的とし、日々攻撃対象を求めてネット上を彷徨っているということになります。それはまるで、一般のネットユーザーにとってはゲリラの巣くうジャングルの中に取り残されたようなもの、と言えるのかもしれません。




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