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”自己完結性”の落とし穴①

 たまに、「あっ、この人って自己完結しているな・・」一緒に話してみるとそんな風に思う人がいる。会話をしていて、私の話していること、思うこと、考えていることが相手にとって全く響かないからだ。”響かない”というのは具体的に言うと、反対するわけでもなく、同意してくれるわけでももちろんなく、”最初から聞く意味がないものとして聞き流されている”という感覚を受けるのである。

 私がこうした人と話をしていて感じたのは、きっとこうした人というのは自分の中に”確固とした”考えが存在しているのだろうということです。そして、その考えが確固としたものだからこそ”誰より優れている”と思いがちであるのではないかと思います。

 自身の考えが”誰より優れている”と思い込んでいるからこそ、他者の意見や考えが自分にとって意味があるものとは思わず、だからこそ最初から聞く意味のないものとして聞き流しているのではないかと思うのです。一言で言えば”自己完結”しているのです。

 
 こうした人にとって人とのコミュニケーションというものは対等なモノになりえないでしょう。なぜなら、自分の考えがもっともすぐれていると思い込んでいるのですから、人との会話が自分にとって意味のあるものとは思っていないからです。結果的にこうした人にとってコミュニケーションの形は”上から目線”の人を見下した一方的なものになると思います。

 こうした人にとってコミュニケーションとは、興味や関心の対象ではなくむしろ”手段””方法”として位置づけられているのでしょう。つまり、コミュニケーションは自分の考えを浸透させる”手段”であり、自分の思い通りに物事を進めようとするための”方法”だと認識しているのだと思うのです。

 こうした認識で行われるコミュニケーションは、自身の考えを相手に伝えることが主眼として行われるため、相手の話を聴く際においては、基本的に聞く耳はもたないが、聞くにしても相手の考えの誤りを指摘することなどもっぱらあらさがしに終始することになる。

 そう、本当は様々な人とのつながりの中で得られた自身の知識や考えを、もっぱら私的なものとして独占し、相手を屈服させるための道具とする。まさしく知識が権威を伴う瞬間だと思う。

 こうした考え方は、ノ―ム・チョムスキーが「メディア・コントロール」で紹介した米国人ジャーナリストの最高峰であり、評論家でもあったウォルター・リップマンの

”大衆には公益が何であるかが分からず、それを理解し、管理できるのは少数エリートの「知的階級」だけである”

その考えそのものだと思う。


 ベタな言い回しかもしれないけれど、人っていうのは本当に弱いもの。誰しも自分の理想や考えそのままに生きられるわけじゃない。時にはまわり道もするし立ち止まったりもする。”正しい道”を知ればみんながみんなその道にそって歩みを進めることができるのであれば、こんなに楽なことはないだろう。

 全ての人が私たちの生活やこの社会をよりよくしていくための”正しい道筋”を認識できたとすれば、確かにこの社会は変わるだろうと思います。ただしそうはいっても全ての人が”正しい道筋”を認識するための社会的な条件がそもそも揃っていないからこそ、この社会はそもそも不健全なのであるのだと思う。
 こうした条件がそろっていない人を前に、そのいくら認識不足を一方的に指摘したり嘆いても、この社会はなにも変わることはないでしょう。

 人にとってよりよく生きるために、自分や社会にとっての”正しい道筋”を知ることも大事だろう。ただもっと大事なのは、その”正しい道筋”を歩もうとしても現実にはなかなか歩むことが出来ないような無数の困難や苦労が存在するということ。そしてその苦労を乗り越えるためには、そうした苦労や困難に想いを馳せてくれる他者の存在が必要だということなのだと思う。

 いくら一人の個が、優れた知識や教養や考えを有していたとしても、それだけではなにも変わることはありません。もしこの世の中が、その超越した”個”の頭の中にあるものであるならば、なにも心配はいらないでしょうけれども。
 ただ現実にこの世の中には、65億人もの人が確かに存在し、それぞれに多様な文化や行動様式・異なる考えを持った人間が存在しています。こうした人たちが一つの共通の考えを持つということは現実的には不可能でしょう。

 この社会や私たちの生活を変えていくために本当に必要なのは、それぞれが自己完結的に他者を排除していく関係ではなく、さまざまな考えを持つ他者が存在することを前提につながっていく力ではないでしょうか。そしてそこには”個”としての人間の限界を超えていく、無数の可能性が広がっている、そんな気がしてなりません。

 

 
 
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コメント 4

コムコム

4年も前の記事なので恐縮ですが、ともさんの仰ることにすごく共感できたので思わずコメントさせて頂きました。
現在僕は就職活動中なのですが、自分が自己完結型であることを、この記事を読んではじめて実感することができました。感謝です。
特に「いくら一人の個が、優れた知識や教養や考えを有していたとしても、それだけではなにも変わることはありません」という言葉が一番心に響きました。
どうも今までの自分は独りよがりになり、周囲の人を心の奥底で見下していたようです。
これからの人生観を大きく変えるような記事を書いて下さったともさんに、今一度お礼申し上げます。ありがとうございました。
by コムコム (2014-05-17 00:01) 

☆★☆とも☆★☆

コムコムさん>

こちらこそ4年前の記事を読んでくださり、そしてあたたかいコメントまで本当にありがとうございます!

コメントの最後に「ありがとうございました。」とまで書いてくださり本当に恐縮ですが、コムコムさんの、その「ありがとうございました。」までのコメントの流れがとっても自然で、とても人を見下している人のようには思えませんでした。

他者に”ありがとうございました”って言うのって実は簡単なことではないですよね。”ありがとう”という言葉は、自分の弱さへの自覚と他者への敬意が伴わないと出てこない言葉だからです。

だからこそ、こんなにも自然に”ありがとうございました”とコメントしてくれる方が、そんな人を見下すような人には思えない、というのが私の実感です。

現在就職活動中ということですが、コムコムさんのそうした誠実さが、たくさんの人に伝われば良いな・・と願ってます!
by ☆★☆とも☆★☆ (2014-05-24 16:17) 

コムコム

お久しぶりです。お返事ありがとうございます。
あれから就活を続けた結果、志望度の高かった一部上場企業から7月に内定を頂くことができました。これもともさんの記事を読み、自分の至らないところを自覚・修正できた結果ではないかと思っております!
本当に感謝しています。
これからも浮かれることなく一社会人として懸命に働き、いずれはこの記事のように人の人生に好影響を与える活動をしていきたいです。
改めてもう一度この言葉を述べます。
「本当にありがとうございました!!」
by コムコム (2014-07-04 01:53) 

☆★☆とも☆★☆

コムコムさん

最近ブログをサボっていてご無沙汰になってしまいました!
一部上場企業の内定本当におめでとうございます!!

コムコムさんみたいな誠実な人がを見る目がある会社で本当によかったです♪

来年からはお仕事大変だと思いますが、身体に気をつけてお過ごしください!!
by ☆★☆とも☆★☆ (2014-08-23 16:56) 

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