SSブログ

昨今の日本の”人手不足”の実態(2)

(4)伸び悩む就職数

 ここまでは、離職率の点から見てきましたが、反対に就職率について触れたいと思います。

 下記に紹介したのは、「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」(※月平均)のここ5年間の数字です。

H25年 月間有効求人数 2,178,634人 就職件数175,659人 就職率33.2% 充足率 21.7%
H29年 月間有効求人数 2,726,327人 就職件数142,882人 就職率33.9% 充足率 14.8%

 上記の数字を見ると、H25年からH29年の5年間の間に、有効求人数は60万人近く増加しているにも関わらず、就職件数は逆に3万人以上減少しており、結果的に就職率はほぼ横ばいの状態となっています。

 有効求人数が増加しているのにも関わらず、なぜ就職件数は減少しているのか。これについては、当然求人における需要と希望のミスマッチの反映ということも考えられます。しかし、いくらミスマッチの実態が存在しているとはいえ、件数の規模を考慮すればやはり、多くの求人において劣悪な労働条件が蔓延しており、その劣悪さゆえに敬遠され、就職数の増加に結び付いていないと考える方が自然だと思います。


(5)難しい人手不足の実態把握

 ①ネット上への大手求人サイトの進出

 以上、有効求人の数字をもとに見てきましたが、一つ注意しておかなければならないこととして、(1)-(5)までに使用した数字は基本的に公共職業安定所(ハローワーク)を介した求人に関する数字だということです。
 現在日本では、インターネットの普及とともに、ネット上での求人サイト(マイナビ・リクナビ等)が求人市場において大きな影響力を持っており、さらにハローワークや大手求人サイトを経由しない求人・求職方法も次々と生まれており、求人・求職方法が複線化してきているという実態があります。

 いずれにせよ、ハローワークを経由しない求人・求職が大幅に増えてきているということには間違いはなく、そのためハローワークでの数字に依拠したこうした統計結果が現在の日本の求人・求職における実情を正しく反映しているかといえば、決してそうではないでしょう。


 ②“カラ求人”の増加
 
 また、ハローワークでの求人数自体もそもそも確実なものとはいえない現状もあります。以前から、いわゆる“カラ求人”と呼ばれる、採用する気はないにも関わらず、ハローワークに求人を出し続けるという実態のない求人も多く見られるからです。

 なぜこのような“カラ求人”が出回っているのかと言えば、企業側が「求人を出していないと会社の景気が悪くみられる」などというような身勝手な理由が挙げられます。また「本当は力のある若い男性が欲しいんだけど、差別になるからとりあえず“誰でも歓迎”」と出しておき、“誰でも歓迎”と言いながら実際はほとんど採用する気はなかったりするような“カラ求人”あります。
 また、これはハローワークの求人だけにとどまらず、大手求人サイトでも、このような”カラ求人”が多く存在します。

 逆に言えば、政府が今のこの”人手不足”と呼ばれる実態をどれだけ実情に近いかたちで正確に把握しているのかということについても疑問を持たざるをえません。


【“人手不足”だからと外国人労働者を受け入れる前にすべきこと】

 このように考えた時に今、政府が“人手不足”と呼ばれる実態に対して改正入管法などの制定よりも先にすべきことがたくさんあるんじゃないかと思います。

 まず一つに、日本の劣悪な労働条件の実態を改善するための努力をすること。劣悪な労働条件の下で安定した雇用が望めず、安定して継続的な雇用が望めず、慢性的な人手不足に陥っていることに対する介入をすべきだと思います。
 
 特に、人手不足と呼ばれる建設・福祉などの産業については、大手ゼネコンが主導するダンピング受注によって中小規模の建設業者が劣悪な条件で現場の職人を働かせなければならないような実態に対して指導することが必要です。
 福祉、特に深刻な介護分野では、国の廉価な介護報酬のため、介護事業所が労働者を劣悪な条件で雇わない限り経営が成り立たない現状があります。介護報酬の引き上げを実施し、介護事業所が安定して雇用を守れる実態を確保していく必要があると思います。

 二つ目に、現在の人手不足の実態を正確に把握するための努力をしていくことです。ハローワークや大手求人サイトでも見られる“カラ求人”をはじめとする悪質な求人に対して適切な指導をしていく必要があります。そのうえで、改めて今の日本の人手不足の実態を把握したうえで、その対応を検討してほしいと思います。

 今回の改正入管法の強行のように、劣悪な労働条件が蔓延した状態で、外国人労働者、ひいてはすべての労働者の中から新たな犠牲者を生まないために力を尽くしてほしいなと心から願います。

nice!(0)  コメント(1) 

昨今の日本の”人手不足”の実態(1)

【依然として低い日本の有休取得率】

 先日、旅行サイト「エクスペディア・ジャパン」の調査で、日本人の有休取得率が世界19か国中3年連続で最下位になったことが発表されました。それによると、日本のは50%、取得日数は10日ということで、率・日数ともに19か国中最下位だったことも明らかになっています。
 また、有休取得に関して、“上司が積極的ではない”という回答もやはり最下位という結果もあり、改めて国・企業の経営者側がともに、有給休暇取得に対していっそう推進していく立場をとって欲しいなと心から願います。


 【改正入管法と外国人労働者の劣悪な労働条件】

 さて、このように、有休取得率という指標をひとつとっても明らかなように、依然として日本における労働環境というものは総じて劣悪な状態にとどまっています。

 先日、外国人労働者受け入れを拡大する入管法改正案が参議院で強行採決により成立し、来年以降、少なくない外国人労働者が日本に流入する可能性が高くなりました。
 しかし、法案をめぐる審議の中で、ここ8年間のあいだに外国人の技能実習生らが174名も死亡していることなどをはじめ、日本における外国人労働者は、命にも関わるような劣悪な条件で労働を強制されている実態が明らかになりました。

 今回の改正入管法は、こうした外国人の劣悪な労働実態はそのままに、まさに外国人労働者をの人手不足解消の“安上がりな労働力”として利用を目的としていることは明らかです。

 そして、この改正入管法は外国人労働者だけの問題ではなく、ひいては日本人労働者を含めた労働条件の切り下げ競争が今後いっそう進行していくという意味でも、私たち日本人にとっても大きな問題です。決してこうした労働条件の切り下げを許してはならないし、こうした切り崩しに対して声を大にして労働条件の改善を訴えて行く必要があると感じます。

 しかし、安倍首相は臨時国会の閉会における記者会見でも、改正入管法に対し、「国内の中小企業が深刻な人手不足に悩まされている」ことを理由に、改めてその正当性を訴える立場をとっています。
 ”人手不足”と言われるようになり数年が経ちますが、現在の日本において人手不足はどのように、どの程度進行しているのでしょうか。そして、改正入管法の強行採決が、こうした人手不足の処方箋となり得るのでしょうか。改めて検討してみたいと思います。


【日本の“人手不足”の実態】 
(1)人手不足の職種

 最初に検討していきたいのは、いま現在日本において、どのような職種において“人手不足”と言われているのかについてです。

 以下は、厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」(平成30年10月度)における「有効求人数」「有効求人倍率」の数字です。(※正規・非正規含む)有効求人数が10万人以上の職種において、有効求人倍率が高い順で、上位5位まで列挙しました。

《職種別有効求人者数/有効求人倍率》

① 介護サービス     有効求人数:234,915人 有効求人倍率:4.18
② 接客・給仕      有効求人数:125,647人 有効求人倍率:3.92
③ 飲食物調理      有効求人数:149,813人 有効求人倍率:3.29
④ 社会福祉専門業務   有効求人数:118,548人 有効求人倍率:3.08
⑤ 商品販売       有効求人数:200,402人 有効求人倍率:2.58

 また、有効求人数が絶対数として少ない業種を含めたうえで、有効求人倍率が最も高い職種は、『建設躯体』が 11.08%で最も高く、次いで多いのが『保安』8.32%、そして、『建築・土木・測量技術者』で5.85%という結果でした。

 これらの結果を鑑みると、福祉・サービス業・建設業などの職種において最も人手不足が深刻化していることがわかります。


(2)どうしてこれらの職種は人手不足なのか?
 
 それでは次に、どうしてこれらの職種は人手不足に陥っているのかという問題についてです。このことを知る一つに指標として以下の指標を見て欲しいと思います。
以下の数字は、厚生労働省の「雇用動向調査・平成29年度版」における産業別の離職率上位3位までを表したものです。

① 宿泊・飲食サービス業  :30.0%
② 生活関連サービス・娯楽業:22.1%
③ サービス業       :18.1%

 このように、特に人手不足に陥っている福祉・サービス業においては全職種の中で最も離職率が高いことがわかります。ここから、いわゆる人手不足、正確にいうと有効求人数と倍率が高いのは、就職した労働者が離職してしまうケースが多い、ということが、大きな要因になっているということがわかります。


(3)どうしてこれらの職種は離職率が高いのか?

 それでは、どうしてこれらくの職種は離職率が高いのでしょうか?
 基本的な視点をあらかじめ抑えておきますと、厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)平成29年度」によると、“前職の離職理由”で「その他」を除く項目で最も多いのが「より良い条件の仕事を探すため」ということで、全体の19.7%を占めています。

 これは全産業における数字ですが、基本的に昨今、日本で離職する労働者というのは、より良い労働条件を求めて離職される方が多いということがわかります。

 そして、福祉・サービス業についてですが、“労働条件”というキーワードからこれらの産業を見れば、どちらも劣悪な状態で働かれている方々が多い職種だということは一目瞭然です。

 一般的に“福祉労働”と言えば、介護・障害・保育などの分野が思いつきますが、いずれも毎日のように事件や事故が報道されている分野ですね。低く抑えられている介護保険における介護報酬、自立支援法の施設報酬、規制緩和により質・待遇ともに切り崩されている保育など、これらの分野は劣悪な労働条件が高い離職率を生んでいることは間違いがありません。

 またサービス業においては、東京商工リサーチ調査によって、厚生労働省が公表した労働基準関係法令に違反した企業の実態調査(2017年度上半期)において、その労働条件の劣悪さが明らかになっています。
 それによると、労働安全衛生法違反について産業別では、建設業35.0%、製造業22.5%、サービス業20.0%とこの3産業で全体の8割を占めており、サービス業は全体の5分の1を占めていることがわかります。
 また、最低賃金法についてはサービス業は全違反件数のうち37.5%を占め、労働基準法違反については32.6%とそれぞれ全業種中1位の割合を占めています。

 このように、労働関連法についてサービス業の遵守率は極めて悪く、労働実態が悪いことは一目瞭然となっています。

つまり、離職率が高かった、建設業・福祉・サービス業ですが、やはりそれぞれの産業において劣悪な労働条件が放置されており、その過酷さゆえ、離職率が高くなっているということは間違いない事実と言えると思います。

nice!(0)  コメント(0) 

ネット上で激化するバッシング(追記)

【佐藤あずさ八王子市議と“積極的断筆”】

 先日、社会民主党の八王子市議である佐藤あずさ市議が、SNSの「積極的断筆」を決定し、11/28を最後に更新が停止されました。更新停止については、来年市議を引退されるということで、その公表をめぐって一部メディアとのトラブルがあり、それが主なきっかけとなったようです。

 私自身は、2年程前にTwitterを通じて佐藤市議のことを知り、以降、時折佐藤市議が書かれているブログなどに目を通していました。とてもしっかりとした思想信条に基づいて言葉を書かれていて、なによりE.フロムについて書かれている記事がとても興味深く、今年になってからは私自身も影響を受けてフロムの著作を読み始めていたところでもありました。
 
 それだけに今回の佐市議のSNSの断筆はとても残念に思います。
いったいなぜこのような事態になってしまったのかと思い、更新を停止した11/28前後の佐藤市議のブログを改めて読んでみると、どうやらトラブルは一部メディアとの間だけのものではなかったことがわかりました。


【“市議引退”をめぐってSNSに寄せられた声】

 佐藤市議は11/21のFacebook上で、『任期満了後の引退について』というテーマで改めて引退について語っています。投稿後、続々と「保守」「愛国者」「自民党支持者」と名乗るいわゆる“ネトウヨ”の方々から嫌がらせのメールが届き始め、その一部には極めて悪質なものがあり、刑事告訴したものもあったとのことでした。

 そして私が気になったのは、佐藤市議の元に届いていたメールの中には、こうしたネトウヨからの嫌がらせだけではなく、左派・リベラルを名乗る方からのものも数多くあったということです。

 佐藤市議は自身のSNS上で、実際に寄せられたメールやSNS上の投稿をアップしており、(※佐藤市議が転載を禁じているため、ここには掲載はしませんが)それらを読んでみると、最初は佐藤市議を擁護することを目的としているのかな、と思いつつも途中から“自分語り”もしくは少し配慮が足りない“叱咤激励”になっているのかな・・というような印象を受けました。

 もちろん、全てがそうした配慮の足りないものだとは思いませんが、とかく確かそうなことと言えば、こうした方々は、佐藤市議を擁護することに目的があるわけではなく、自身の人生や希望を佐藤市議に投影している。例えるならば、親が子どもに自分の願望を押しつける状況と酷似しているような印象を受けました。


【SNS上で顕在化する“負の感情”】

 私の前回のブログの記事において、“ネット上で激化するバッシング”というテーマでSNS上におけるバッシングについて書かせていただきましたが、今回の佐藤市議の件もこうしたバッシングが炎上につながった事例の1つだと思います。

 経過をみても、市議引退表明をきっかけとして“ネトウヨからの執拗な嫌がらせ”→“まとめサイトへの転載”→“マスメディアによる拡張作用”といった前回の記事で書かせて頂いた“炎上”の流れがそのまま見られます。
 
 ただし今回は、佐藤市議がマスコミに大々的に報道される前に自身への取材やSNSの更新をシャットアウトしているのでこれ以上の拡大はなさそうですが、いずれにせよ当事者の佐藤市議としては不本意な結果だったと思います。

 そして、前回当ブログにおいて私が投稿した記事の最後に、「バッシングを繰り返すマイノリティの心性には、少なからず私を含む日本の幅広い人たちの間にも共通して存在するものがあるのではないかということです。」と私は書かせていただきました。
 
 正直、この時はそこまで大きな問題意識を持っていたわけではありませんでした。しかし、今回の佐藤市議の件において、左派・リベラルも含めて幅広い思想信条を持つ方からも“お説教”に似た投稿がみられたことからも、私はこうしたSNS上でのバッシングに類する言葉の背景には何かとても大きな“負の感情”が渦巻いているのではないかという思いを強くしました。
 

 【誰もが心に抱く“負の感情”?そしてそれを生み出す構造

 前回の記事で指摘したように、ネット上での“炎上”は、確かに最初は一部のネトウヨなどのマイノリティが執拗に嫌がらせの書き込みを繰り返し、ネットメディア・マスメディアによって事が拡張され“炎上”に発展するのかもしれません。

 しかし、事は本当に一部のネトウヨなどのマイノリティやネット・マスメディアだけの問題なのでしょうか。私たちが日々行っているSNSへの投稿、それらは本当に純粋な他者や社会、そして自身の人生をより豊かにするためのものとなっているでしょうか。
 
 私たちが日々抱えている満たされない思い、そうした“負の感情”の発露の場としてSNSが存在していないでしょうか。

 とはいえ、私がここで訴えたいのは、「一人ひとりが気をつけよう」というような月並みな、自己啓発的な回答ではありません。

 もし、一部のネトウヨなどのマイノリティだけでなく、私たち自身も含めて、バッシングに類する書き込みをする動機が、そうした“負の感情”の発露に由来するものであるとするならば、本当に問われなければならないのは、なぜ私たちはそうした“負の感情”を抱くのか、そしてなぜそのはけ口をネット上での他者に向けてしまうのか、ということを社会構造的にも一人ひとりの心象からも探っていくことなのだと思います。
 

 【さらなる犠牲者を生まないために・・】
 
 私がこの間、本当に残念でならないのは、ネット上でのバッシングや炎上によって各分野の数多くの有能な方々が、そのあゆみを止めざるをえない状況に追い込まれているということです。対象となってしまった当事者にとってはどれだけ辛い経験であろうかという思いはもちろん、この社会のそれぞれの関わる分野にとってもどれだけの損失であろうかとも思うのです。

 私が本当に見たいのは、人と人との争いや足の引っ張り合いではありません。本当に見たいのは、この世の中や各人に潜在する、他者や社会、そして各人自身をより豊かにするような能力の発現です。それはきっと誰もが心の奥底では願っていることなのではないでしょうか。
 
 これ以上、ネット上での不毛な争いでさらなる犠牲者を生まないためにも、私たち一人ひとりがこうした構造について冷静に分析していく必要があるのではないかと思います。


nice!(0)  コメント(1) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。