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山梨県知事選挙から見る“野党共闘”のありかた

★山梨県知事選挙の現況

 今月27日投開票の山梨県知事選挙がいま注目を集めています。与党の自公政権が推薦する新人と、野党である立憲民主・国民民主党が推薦する現職の“与野党対決”と主要メディアは報道しており、今後に控える4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙の行方をうらなう選挙と位置付けられています。

 今回の山梨県知事選挙に立候補しているのは、届け出順に花田仁、米長晴信、後藤斎(ひとし)、長崎幸太郎の4氏となっています。選挙情勢については、共同通信社による1/18-20に行った電話世論調査で、「現職、後藤斎氏(61)=立憲、国民推薦=と、新人の元衆院議員、長崎幸太郎氏(50)=自民、公明推薦=が横一線で競り合う。諸派の共産党県委員長、花田仁氏(57)=共産推薦、元参院議員、米長晴信氏(53)の2新人は厳しい」と、自公勢力が支援する長崎氏と、立憲・国民民主が支援する後藤氏の一騎打ちの様相となっているとのことです。

 投開票まであと1週間をきる中で、国政において“野党共闘”を声高に訴えているはずの共産党が、今回の山梨県知事選挙においては独自候補を擁立し、“野党共闘”を見送ったことに対して、全国の野党共闘支持者の一部には『なぜ野党共闘を見送ったのか?』という疑問の声も上がっています。

 というわけで、今回の記事では山梨県知事選挙において、なぜ共産党は“野党共闘”を見送らなければならなかったのかということについて検討しながら、野党共闘のありかたそのものについても改めて問い直してみたいと思います。
 ちなみに、私自身はもうすでに山梨県民ではないので、今回当事者間で具体的にどのような協議がされたのかはわかりません。そのため一定程度推測を含んだ議論になりますが、ご了承願えればと思います。


★なぜ共産党は山梨県知事選挙において野党共闘を断念したのか?

 まず最初に、なぜ今回の山梨県知事選挙において共産党は野党共闘を見送ったのか。私はその理由を一言で言えば“野党共闘の構図自体が成立しないから”と考えます。

 実は、今回の知事選挙において立憲民主・国民民主両党の推薦を受け、いわゆる“野党候補”として立候補している後藤斎氏ですが、以下の2点においてその内実は“野党候補”とは言い難い側面を持っています。

① 前回の山梨県知事選挙において自公の支援を受けて当選していること。
② 今回の山梨県知事選挙においても、県内の一部の自民党組織から支援を受けていること。

というように、後藤斎氏は表面的には立憲民主・国民民主の推薦を受けた“野党候補”とメディアでは報道されていますが、その実は、4年前の前回選挙から現在に至るまで一貫として自公勢力の支援を受け続けている、半分“与党候補”ともいえる候補者でもあるのです。

 もし、このような半分自公勢力に足を突っ込んだ候補者を共産党が支援することになれば、支持者から「なぜ自民党組織も応援しているような候補者を支援するのか」と疑問の声があがることは間違いありません。

 加えて、もし今回共産党が野党共闘で後藤斎氏を支持し、後藤氏が当選したとします。その後、政権与党がもし後藤斎氏と和解して、これまでの4年間同様に後藤氏が政権与党と足並みを揃えて県政に携わっていくようなことになるのであれば、そんな候補者を支援してしまった共産党の信用は失墜し、野党共闘自体も大きな打撃を受けてしまうことに繋がりかねません。

 だからこそ、今回の山梨県知事選挙において共産党が後藤斎氏を支援せず、独自の候補者を擁立し野党共闘を見送ったのは、「共産党が頑固」「立憲民主・国民民主を嫌っている」というわけではないでしょう。現職の後藤斎氏がこれまで自公勢力の支援を受けてきており、そして今回の知事選においても一部とはいえ自公勢力の支援を受け続けているために、野党共闘の構図自体が成立せず、見送らざるをえなかったというのが本当のところだったのではないかと思います。


★山梨県内での“野党共闘”の構図が成立しない状況に陥ってしまった根本理由について

 そもそも今回の知事選が、なぜこうした“野党共闘”の構図自体が成立しないような状況にまで混迷してしまっているのかと言えば、私は2つの要因があると考えます。.

一つ目に、前回の山梨県知事選挙において、自公勢力が独自候補を擁立できずに、結果的に旧民主党出身である後藤斎氏を支援してしまったということ。

二つ目に、今回報道でも話題になっていますが、自民党組織が山梨県民の利益を顧みない、自分勝手な党利党略による派閥抗争を知事選挙において持ち込んでしまってきたということ。
(※近年の山梨県内の国政選挙において、自民党二階派の長崎幸太郎氏と岸田派の堀内親子が5回争う派閥抗争の保守分裂選挙を繰り広げている。その禍根により、県内の岸田・堀内派の自民党組織が今回の知事選挙において長崎幸太郎氏を支援せず、現職の後藤斎氏を支援する分裂選挙となっている。)

 このように、山梨県知事選挙における自公勢力の選挙方針の迷走こそが、今回の選挙戦においても事態が混迷することになってしまったもっとも大きな要因であると私は考えます。


★地方選におけるそもそもの“野党共闘”の是非

 ここまで、政権与党である自公勢力の山梨県内における選挙方針の迷走こそが、今回の知事選における事態の混迷を招いた根本要因であり、そのため野党共闘の構図自体が成立せず、共産党が野党共闘を見送らざるをえなかったという事情について述べてきました。

 しかし、そもそも私自身は地方選挙において一律に“野党共闘”を実施することについては慎重であるべきだと考えています。

というのも基本的に地方選挙においては、そこに住む住民の意志と要求が最大限尊重されるべきであり、基本的に国政の問題や、政党同士の利害関係を“直接”そこに持ち込むようなことがあってはならないからと思うからです。

 この問題が顕在化してしまったのが、2016年の東京都知事選挙であったと思います。この都知事選挙では、住民要求であった“景気回復”“福祉の改善”、そして注目が集まっていた築地移転問題において、野党共闘候補であった鳥越俊太郎氏が都民のそうした要求をうまく反映した政策を打ち出せなかったこと、あと、そもそも公約自体を発表したのが告示ギリギリのタイミングだったこともあり、有権者に上手く浸透しませんでした。
 
 また、候補者選定のプロセスにおいても以前から市民と旧民主党以外の野党が連携し支援を予定していた宇都宮健児氏の支援を、旧民主党が同意できないということで、旧民主党自身が依頼していた鳥越俊太郎氏に野党共闘候補を急遽変更するという問題があり、市民から少なくない批判が寄せられました。
 結果、東京都知事選挙において野党共闘候補は惨敗し基盤となる得票からも大きく減らす結果となりました。
 
 この東京都知事選挙の教訓からも明らかなように、地方選挙というものはただ一律に野党共闘を実施すれば成功するというものではありません。


★野党共闘の陰にひそむ“図式主義”

 過去の話となりますが、昔ドイツ社会民主党内の指導者の一人であるパウル・エルンストが、当時の婦人問題について、K.マルクスがドイツの社会分析から引き出した規定を、そのままノルウェーにあてはめた論文をF.エンゲルスに送り批評を求めたことがありました。それに対してエンゲルスは、ドイツもノルウェーもそれぞれ独自の歴史的・民族的特徴を持っていることを詳しく指摘し、エルンストのような“図式主義”は自分たちの掲げる唯物論的方法とは無縁なものであり、その「反対物」だといって批判しています。

 このエンゲルスの批判は現在における野党共闘のあり方についてあてはまると思います。山梨をはじめとする地方にはそれぞれ独自の歴史や事情、住民の要求が存在します。そうしたことを鑑みずに、いくら“安倍政権の打倒”という大義があるとはいえ、一律にいつでもどこでも“野党共闘”を掲げるのであれば、それこそエンゲルスの指摘した“図式主義”に他ならないし、東京都知事選挙のように、結果的に既存の支持基盤すらも切り崩してしまうような事態にも繋がりかねません。


★地方選挙で問われる“住民が主人公”の立場

 私は地方選挙において野党共闘を成功させるためにもっとも大切なことは、選挙政策の立案から候補者の選定、そして実際の選挙戦のたたかいまでのすべてのプロセスにおいて、“住民が主人公”の立場が貫かれることだと考えています。

 現にこれまでの地方選挙において“野党共闘”の候補者が勝利した選挙は、いずれもそれぞれの地方における独自の課題や要求が、国政において“野党共闘”候補が掲げている要求と合致していました。また、候補者選定や選挙戦のたたかいに至るまですべてのプロセスにおいて“住民が主人公”という立場をつらぬく形で選挙がたたかわていました。

 例を挙げるのなら、沖縄県知事選挙(米軍基地問題)、新潟県知事選挙(2016・原発再稼働)、仙台市長選挙(震災復興)というように、いずれの地方においても住民の要求と、国政における野党が政権与党に対置している要求が合致し、候補選定、選挙戦における市民グループの多大な影響力のもとで野党共闘候補は見事に勝利を収めています。

 繰り返しになりますが、地方選挙において最も大事なのは“住民が主人公”の立場です。地方選挙自体、もともとはそこに住む住民の意志と要求が問われるものであるし、地域の住民を置いてけぼりにするような選挙戦には決して未来はないと思います。


★山梨県知事選挙において、共産党が示した態度の積極的意義

 そういう視点で改めて山梨県知事選挙での共産党の立場を振り返ってみた時に、結果的に今回は野党共闘を見送り独自候補を擁立することになったわけですが、野党共闘を今回見送ったことは決して消極的な態度の結果ではなく、むしろ積極的な意義をもった性質のものではないかと思います。

 もし共産党が一部の自民党組織が支援する候補を共産党が支援することになれば、必然的にその訴える政策は住民の利益と乖離を伴うものなってしまったに違いありません。しかし、今回共闘を見送ったことにより、共産党は地域住民のくらしを一番に据えた本来の政策を堂々と掲げて選挙戦をたたかえるのです。そしてそれは同時に、地域住民の暮らしを破壊する諸悪の根源ともいえる安倍自公政治に対して、鮮明に対決姿勢を打ち出せることにもつながります。

 今回の選挙をこうした立場でたたかえることは、今回の知事選挙において自公勢力が推薦する長崎氏に対して攻勢的に選挙戦を組み立てることができますし、長期的な視野で見た時に、今回の知事選挙において展開している政策論戦は、今後のたたかいにも必ず生きてきます。それは“安倍自公政権の打倒”を第一とする野党共闘の本来の目的にも結び付くことでしょう。そう考えた時に、今回共産党が山梨県知事選挙においてとった態度は、野党共闘支持者のみなさんの要求にも沿ったものになると考えます。

 幸い、立憲民主・国民民主党の党中央本部の側も、今回の知事選挙においては“地方選”としての立場でたたかう立場から、党中央からの大々的な支援は行わない方針のようです。そのため、今回の知事選挙においてたとえ勝敗がどうなれど、今回の知事選におけるそれぞれの野党の共闘についての態度が選挙後に批判される可能性は低くなったと思います。

 共産党としては、今回の山梨県知事選挙で展開している自公勢力への攻勢的姿勢そのままに野党共闘自体もダメージを受けずに参議院選挙に臨むことができるわけです。

 7月の参議院選挙では、野党の中央レベルで全国32人の一人区で共闘が実施されることがすでに確認されています。来るべき参議院選挙において、共産党、そして野党共闘候補が自公勢力に対し勝利するためには、今回の知事選挙においてどれだけ自公勢力に対して圧力をかけられるかということが非常に大事になってきます。

 残り数日になった山梨県知事選挙ですが、どうか野党共闘支持者のみなさんには、今回のたたかいにおいて、唯一安倍自公政権に対して鮮明に対決姿勢をとっている日本共産党に対してご理解を頂ければ幸いです。

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