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未就労者の実態と”意欲の貧困”(3)

☆”擁護不可能なゾーン”に存在する若者たちをもカバーするために求められるもの

 前の記事で紹介をした、田原さんの場合、未就労状態ではありましたが、4回も就いた仕事を全て1日で辞めてしまったとはいえ、就職活動自体は行っていました。

そして、(1)の記事では逆に、未就労状態であり、かつ就職活動もせず就業を希望していない”非希望型”が増加していることに注目しましたが、ここに属する人たちも、それぞれに理由があるとは言え、就業を希望していない以上、世間一般からは、田原さんと同じように「努力していない」「意欲がない」というみなされる可能性が高い人たちです。そしてこの中には、”意欲の貧困”という困難を抱えている方も相当数内包している可能性が高く、また、いわゆる擁護不可能な”ゾーン”に存在するという点では共通しているのだと思います。

 先の(2)の記事では、”意欲の貧困”は、「甘え」や「怠惰」といった次元の、自己責任でどうにかなる問題ではなく、ましてやそのことをバッシングすることでは何も解決はしないということを指摘しましたが、こうした”意欲の貧困”を抱えた未就業者の人たちをもカバーできる議論を展開していくために私たちには一体何が求められているのでしょうか。


☆「貧困」とは”意欲の貧困”をも含むもの

 まず必要なのは、私たちが陥りがちな、「貧困」=「経済的な貧困」(お金がなくて貧乏なこと)という「貧困」概念を狭義のものとしてしまう考えを改めることです。つまりは、「貧困」は「”意欲の貧困”を含むもの」として貧困論を再構成することが求められます。

 「貧乏だったが、苦境に負けずに頑張って今の地位を成した」といった成功物語は、貧困を貧乏(経済的貧困)に縮減し、メンタルな問題を切り離すことで成立しています。それは、メンタルの問題が依然として社会構造的な問題ではなく、個人的問題へと領域分けされていることの証左であり、”意欲の貧困”はいわば心理主が他の人たちに比べ小さいのが貧困だといえます。

 「意欲はあるのに仕事がないだけ」「こんなに頑張っているのに報われないのはおかしい」といった議論は、現実は、格差を批判しようとする意図に反して「意欲」を個人的・心理主義的解釈に押し込めてしまい、「意欲の貧困」を抱える現実の貧困者を周辺においやってしまう可能性があるのです。


☆”溜めのない状態”としての貧困

貧困は基本的に経済的生活困窮状態の問題に還元すべきではありません。

 アマルティア・センは上記のような見解を批判して、貧困を「基本的な潜在能力(capability)が剥奪された状態」と定義しています。湯浅氏は、同様の視点から貧困を「相対的な”溜め”のない状態」と定義しています。

”溜め”とは、人を包み外界の刺激からその人を保護するバリヤーのような存在です。たとえば、貯金などの金銭的な”溜め”、家族・親戚・友人といった人間関係の”溜め”、ゆとりや自信などといった精神的な”溜め”、そして自己責任論を批判的に捉え返すことのできる知識・知性も重要な”溜め”だといえます。

人はそれぞれ人なりの”溜め”を持ち、”溜め”に包まれて生きています。その”溜め”が他の人たちに比べ小さいのが貧困だといえます。

 「意欲の貧困」はこの”溜め”のなさのひとつの表れであり、別の有形有無の”溜め”と密接に関連している状態といえます。強い家族的紐帯、または親友たちの励ましのもと、経済的困窮状態に立ち向かい克服したといったサクセスストーリーは、「誰だってその気になればできる」ことを示しているわけでは決してなく、人間関係の”溜め”が、時には経済的貧困に打ち克つほどの重要な”溜め”の機能を有していることを示しているのだと思います。


☆最後に・・

 今この世の中で、未就労状態におかれている人は数多くいます。人によってはせっかく就いた仕事をすぐに辞めてしまい、「根性がない」ようにみえるかもしれません。また、就職活動もまったくしないで、家にひきこもっているような「甘えている」ように見えるかもしれません。

 繰り返しになりますが、こうした意欲をはじめとする貧困状態におかれている人たちに対して、その状態に甘んじていることを自己責任だとバッシングすることで何も解決はしないし、その方々がその状態に置かれていること事体がとても自己責任に収斂できるような問題ではないということです。

 一見うずくまっているようにしか見えない人に対して、バッシングをしたり、「特別な人」と排除するだけでなく、そうした方々こそ、今の社会構造の歪みが生み出している末端部分に位置する人たちと、運動側に携わる人たちがカバーしていく視点を持たなければならないのでしょうか。
 

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